思い悩む思春期達

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しかし、例えその勝負で龍人達が勝ったとしても自分達が英明館学園より優秀だとはならないだろう。相手は主力の三年生をひとりも出さなかったのだし、彼らには多くの功績がある。案件を依頼する者の心理を考えれば、闘論会に勝ったというだけの無名高校より、実績のある英明館学院の方を選ぶはずだ。 それに──これは龍人の想像だが──依頼がないのは天河崎が断っているからではないだろうか。ついこの前AS室に連絡が入った時、電話に出た天河崎は『申し訳ないですが……』と言って何かを断っていた。 たぶんあれは外からの依頼を断っていたのだろう。学校側の意思か本人の意思かは分からないけれど、その判断は正しいと思う。神隠し事件の犯人は無差別に人を襲っているようだし、どこをうろついているか分からない以上、無暗に出歩かない方がいい。 「そんな文句を言っても依頼は来ませんって。それに、来たとしてもまた迷子の犬探しとかだと思いますよ?」 龍人が小さく笑ってそう言うと、柚稀は唇を尖らせ、ふくれっ面を見せる。 文句は言わなくなったのは鬱憤を口にした事で少しは気が済んだからか?などと思っていたら、唐突に千秋が言った。 「しっかし、神隠し事件かぁ……。この街もまたぶっそうになってきたよなぁ」 「……そうそうそう言われると、そうだねー。『覇武(ハブ)』と『萬宮棲(マングース)』が壊滅してまだ一ヶ月もしてないのにこんな事件が起こるだなんてねぇ……」 「連中がいなくなって今までこそこそ活動してたヤツらが活発的になってきてるって話だし、今回の事件もそいつらの仕業か? まったく、どんだけ治安が悪いんだよこの街は」 「んー。あたしは違うと思うな。考えてもみなよ。たった数日で消えた人の数は一七人。その人達に共通点はなくて、どこでいなくなったのか分からない。おまけに犯人の目星もついてないなんて……あの時みたいだよね?」 「ああそうか。こいつはまるで三年前の……」 と千秋が言いかけたところで、ピクッと、龍人の眉が動いた。 意識してではなく反射的に動いていた。 今回の事件と繋がる三年前のできごとと言えば、恐らく肝喰(チェルノボーク)の事件だろう。犯人像がまったく見えないことや無差別な犯行、そして被害者の出るペースなど、いくつも類似している。 違うのは殺人か誘拐かという点だ。
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