追いかける者たち

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「全力で身を守れ。――死にたくねェならな」 その声はライラの耳に届かない。しかし彼女は聞こえなくとも本能でそれを理解していた。 そして、圧縮されたエネルギーが爆発する。 ――ッッッッ、ドンッッ!! 音は遅れてやって来た。強烈な爆風を受けた砲弾(柳生)は触れた空気で皮膚が裂けるほどの凄まじい速度でライラに突貫する。 この一撃で決着をつける。柳生は自らの血にまみれながらそう心に決め、前方に加速し続けている身体の推進力をすべて長刀に乗せる。 対するライラは即座に糸で盾を五枚作り、身体の前で重ねるようにしてそれらを構える。 魔術も物理攻撃も通さない絶対の防御壁。それを五枚重ねた。どんな一撃だろうとこの盾を破れるものはない。いや、破らせはしないと強い意志を持って身構える。 最強の矛と最強の盾。その決着は一〇秒とかからない。 ドババンッッ!!! 爆破の如き衝突音が鼓膜をつんざく。柳生の突きはライラの盾四枚を一瞬で食い破る。だが最後の一枚を前に動きを止めた。刀の先端は盾に突き刺さっているがそこから先に進めない。 貫く力が、足りていない。 「……私の、勝ちですわ」 冷や汗を流すライラがそれを確信する。かなりギリギリだった。柳生から吸い上げた魔力は使い果たし、自分の魔力()も枯渇しかかっている。しかしそれは相手も同じ。いいや。相手の方が限界に近いはずだ。きっと今の一撃で打ち止め。ならば反撃する力が残っている自分が、 「――戯言を、ほざくな」 たった一声。その声がライラの背筋を震わせる。盾の向こうにいる敵の目は、まだ死んでいない。 今の突きですべての盾を貫けなかったのは理解した。だったら一撃で駄目なら二撃目を入れればいい。魔力が底をついたのもわかっている。だったら最後の一滴まで、目いっぱい振り絞ればいい。 待っている相手(龍人)が、この街のどこかにいる。彼を捜して、はるか昔に交わした『約束』を今度こそ果たすのだ。――だからもう、邪魔するな。立ち塞がるな。お前の相手をしている間に彼が遠ざかる。 だから、 「そこを……退けええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」 そんな咆哮と同時に柳生の魔武器(アーム)から伸びる【光糸】が彼の背中で螺旋状の渦を巻く。直後、ボアッ! とロケットの打ち上げさながらの勢いで魔力が噴射した。 限界を振り絞って放出された魔力は五秒と持たないだろう。しかしそれで十分だった。魔力の噴射による推進力が柳生の背中を押し、長刀に再び力を乗せる。さらに柳生が腕を素早く捻り、刀を強引に押し込むようにして糸の盾にできた穴を広げる。 そこで力の均衡が崩れた。頑丈だったはずの盾は突如として脆くなり刃を貫通させてしまった。 斬ッ!! ライラの肩に長刀の先が突き刺さる。勢いに押されて体勢を崩した彼女はそのまま地面に叩き付けられた。 地面に出来た大穴はライラに致命傷を与えたことを語っていた。
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