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~少女と狼~
少女と仲良し狼。
言葉は通じないが、少女が唄う唄が、二つの心を繋いだ。
オブリビオン____。
それは記憶の忘却の意。
喜びも悲しみも、感動も憎しみも、全て消し去ってしまう。
少女はそれを恐れ、泣いた。
狼はそれを拒み、抗う。
神が創りし世界の理の中で、やがて記憶は消えてしまう。
____しかし、心は残る。
少女はそれを喜び、泣いた。
狼はそれを憂い、抗う。
そして狼は、神を喰った。
怒りを身に宿し、野蛮なる者として歩む覚悟を決めた、名も無き孤独の狼。
その罪は重く、世界は名も無き孤独な狼を、紐で縛り上げ、晒し者にした。
神殺しの蛮犬、と。
しかし少女は知っていた____。
記憶を失った少女が、ただ一つとして知っていた、愛する彼の名を……。
少女は狼を抱き、彼の名を呼び、泣いた。
____ありがとう……。
その少女の言葉を、血に染まった身体に受け止めた狼は、一筋の泪を流して、永い眠りについた。
安らかな表情を見せ、人知れず人の世と少女を救った狼の前で、少女はたった一人で、唄い続けていた。
正義の番犬、フェンリル。
今はただ、疲れた身体を癒す為、安らかな眠りにつけ……。
世界が再び悪意を武器に、愛する者を脅かさんとする時まで……。
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