プロローグ

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 ではハルー人はどうなのか? 答えは分からなかった。 お湯を沸かすガスや、寒い室内に温もりをもたらすストーブ。 彼らに今の生活を聴いてみようにも、彼らハルー人はもれなく皆、シス教団の教会の中にいる。  だからシス教団によって訪れたと言われているこの平和の世界だが、どうしても私はこう考えてしまう。  __ハルー人と言うもう一つの存在を、シス教団は無理やり忘れさせようとしている、と。  何日か前、私が街を歩いていると、珍しくもシス教団に対する抗議活動があった。 そこに参加している人の話を訊いてみたかったのだが、彼らはすぐに国の憲兵団によって、漏れなく全員捕縛されてしまった。  余りにも迅速過ぎる、抗議活動に対しての反応であった。 あんなものを見せられては、こう言った行為の対処に慣れているのかとも思ってしまう……。  話が長くなってしまったが、世界は平和だ。 今のセウィドには戦争の気配と言うものは何一つないと言っていい。 もし私がシス教徒であったのならば、こう言ってしまえるかも知れない。 「教団のお蔭で世界は平和だ」 と。 しかし実際人々の大半は、そう思っている事であろう。 数々の犠牲の上に成り立った平和の上を、私達はこれからも歩んで行くのだろうか?  繰り返しになるが、ここから先の未来は私にも分からない。  今の時代に生きる者の手により、この世界の物語は、変わっていくのだから……。  __とある男のレポートより。
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