光の先にあるもの

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春の風が李梗をそっとつつみこみ、髪をなびかせた。 ゆっくり眼を開けると目の前に、城邑が淡い朱色に染まっていた。 ここから見ると乱世が嘘のように平安に見える。本当は、人も物も入れ替わり、失われていく。 城邑を眺めていると後ろから姉の水蓮がやってきた。 「姉上様」 李梗は花のような笑みをした。 「ここで何をしていたのだ?」 水蓮が訊くと、李梗は城邑を眺めていたと答えた。 「そうか。でも、ここは冷えるから中へ入ろう」 水蓮の言うとおり、春とはいえ、夕方になると肌寒かった。 水蓮は十八歳、生まれながらの王族で姫君である。 李梗とは腹違いの姉であった。 李梗と一緒に菓子を食べようと誘いに来たのだ。 李梗は八歳。和宮国には、王子がおらず、正妃の娘である李梗は次代の王に選ばれていた。 初の女王が誕生しようとしていた。 愛くるしい顔が王妃に似ていると評判である。
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