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「俺と付き合ってほしいんだ。」
「ごめん。あたし貴方の事よく知らないから。」
また心に嘘をつく。本当はずっと見てたんだ。
そうだよね……と苦笑を浮かべ去っていく背中を見つめて溜め息を吐き出す。
どうしていつもこうなってしまうのだろう?日が暮れ始めた校舎の裏庭で佇み虚しさに支配されていく。
「蓮ちゃん!こんなとこにいたぁ。探したよう、帰ろう?」
あたしの沈んだ心とは裏腹に愛嬌のある弾んだ声が響いた。振り返ればこっちに向かって手を振る親友の姿。
あたしは笑顔で手を振る彼女の姿に更に痛みを覚えた。
「伊織、ごめんごめん。帰ろうか……」
「また告白でもされてたんでしょお?振ったの?」
可哀想、なんて呑気な声をあげる彼女は親友の伊織(イオリ)だ。幼稚園の頃からずっと一緒で、よく姉妹みたいね?なんて言われる。実際伊織はあたしとは正反対でくりくりした瞳と愛嬌のある明るい性格で甘え上手な妹タイプだった。
あたし蓮(レン)は、どちらかと言えば少しきつめの瞳に感情が顔に表れにくいって言われる。甘えたりするのは苦手で可愛げはないと思う。
本当に伊織とは真逆の性格。
それなのに何でだろう。 神様は意地悪だ……
「私も告白しようかなぁ。大野君に。好きな子とかいるのかなぁ?」
伊織の言葉にぎくりとした。答えられるわけないよ。
「さあ?あたし話したことないし。」
言葉を交わしたのはついさっきの事だ。
でも、あたしはそれを無かった事にする。傷つけたくない。
偽善かもしれないけど、 壊したくないんだ。友情を……
ーー本当はあたしも大野君の事好きなの
そして、彼から告白されたと告げたらどうなるかなんて考えなくてもわかる。伊織は泣いてめちゃくちゃになるかもしれない。
だから、全部なかった事にするんだ。
あたしの想いも全部。
正反対のあたし達に唯一残された共通点。
好きになる人がいつも同じだって事を知っているのはあたしだけだ。
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