ヒーロー

7/8
前へ
/10ページ
次へ
夾君の視線が痛い。きっと早くしろって言われる。 諦めようと私が手を引っ込めると代わりに伸びた手が本を掴んだ。 「ほら」 夾君は私に本を手渡した。私は彼と受け取った本を見比べた。 「それだろ」 「…うん…」 「自分のチビさ加減把握しなよ」 彼は本を奪うと貸出手続きをし始めた。 「…ありがと…」 赤い顔でお礼を言うと彼ニヤリと笑った。からかう時彼はいつもこんな顔をする。 「気付いてないみたいだけど今日って図書室休み」 「え!」 私は慌てて図書室の壁に掛かったカレンダーを見た。今日は水曜日。図書室の休みの日だった。 「え、あ」 「あんたって本当に間抜けだよね。転ぶし。鈍いし」 あぁ、もう何がなんだか分からない。 「…なんで夾君はここにいるの?」 今日が休みなら夾君は何でいるのか分からなかった。 私は彼の視線で熱くなっている頭で必死に考えるけど、お手上げだ。 夾君はニヤリと笑ったまま私に近づいてきて、私はゆっくり後ずさった。 後ずされば背中にぶつかったのは本棚。逃げ場が無くなった私の視界には彼しかいない。 「さて、何でだろうね」 彼は意地悪そうに呟いて私に本を手渡した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加