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知人に言ったら完全ニートになれるな、と彼は付け加えた。
「あの……」
「悪い、時間だ」
テキトーに伝えたぜ、と彼は言って私の頬に何かを触れさせた。さっきまで背中にあった、それのひんやりとした温もり。
「ちなみにこれはフェイク(樹)だ。さっき拾った」
そして彼は消えた。
聞きたいことがあった。「引き金を引いた先に、誰かがいたことがあったのか」と。
ゆっくりと息を吐く。そして、
「真帆」
「ひゃっ」
「えっ?」
慌てて振り返るとそこには亜紀がいた。全く気付かなかった。そして変な声を出してしまった。
「……何でもない」
星空の下、複雑怪奇な表情をしていた亜紀に言う。
「……今更だけど長すぎるな、って。大丈夫?」
「寒い」
「考えすぎると臆病になる」
昼休み、想一のところに行って(私の席には長太郎が座った……)「考えろってさ」と何となく呟いたら彼はそう返してきた。
「私のこと?」
「さあね」
私のことだ。
あの夜、その後私が部屋に戻ってまず何をしたかと言うと、タブレットの接続を引っこ抜いた。何をしたかはさておき、そのミスに腹が立ったからだ。
それから、クラックして得た情報は私オリジナルのプロテクトをかけて保存した。消しはしない。いつか、それが明日なのか数年後なのかはわからないけど、考え続けて待とう、と思った。具体的に何を考えるのかなんて全くわからないけど、それでも。
「死にたくはないよ。やりたいこと、いっぱいあるから」
「……死ぬような事態だったのか」
「私の中では突き付けられたのは9mmだった。お下がりのね。興味ある?」
「それは猫を殺す」
笑って見せる。笑って見せたところで、何か嬉しかった。
「しかし、真帆は死ななかったわけだ。つまり、君は間違ってはいない。目の前の死を生きるチャンスに変えた」
「結論は出せないよ。まだまだ」
「それでも真帆は間違ってはいないと思う」
「……ありがとう」
想一の瞳はほんの微かに碧色だった。
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