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失敗すれば厳格な父は呆れて溜め息を吐く。
愛想を尽かされるのではないか、と父の溜め息を聞くとびくびくした。
大きな反動に尻もちを突けば、痛くて泣いた。
もうこんなのは嫌だ、と泣いた。
それでも父は心配してくれることなどなかった。
実戦だと試験をさせられることもあった。
その時はいつ自分に襲いかかってくるやもしれぬ未知の物体に恐れを抱き、ぶるぶると震えた。
恐怖から、標的が目の前に出てきても動けない事もしばしばあった。
そうして、父は多くの溜め息を吐き、一人でどうにかしろと言い、どこかへ行ってしまった。
日本家屋の広い庭で蹲り泣いていると、そこへ来るのは母ではなく、二十歳近くの兄だった。
愛想なんてものは欠片もなくて、いつも上唇と下唇を縫い合わせたように口元に一本線を引いていて、冷めた紅い瞳で見下してくる。
その瞳の奥は細かったけれど、怖いだなんて思ったことはなかった。
父よりも、やさしさを持っていると感じられた、ただ一人の理解者である、ずっと昔から容姿の変わらぬ兄。
彼だけは、庭で一人泣いていると手を差し伸べてくれた。
その瞳は冷めていて、呆れているのだとわかっていたけれど、その手が嬉しくて、その手に小さな手を重ね、立ちあがった。
彼が居たから、強くなろう、家業を継がなければ――そう思えたのだ。
彼が、いつも支えてくれているから――
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