~序章~ 暗闇の中で

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U.C.0096 12月4日 17:48 私はロッカーからパイロットスーツと取り出し、手慣れた手つきで着替えてヘルメットを被った。 長年使っているこのパイロットスーツには傷や血痕が数多く付いている。しかし新調するつもりはない。これが私の歴史なのだから。 ふとパイロットスーツを着る動作はこれで何度目だろうか、と思考をめぐらすが、最初がいつだったか思い出せないし、思えば数えるだけバカらしかった。 どうせこれからも増え続けるのだろうから。 「リカーハット中佐。私は出撃準備整ってます!」 目線を後ろに向け声がした方を見れば、まだパイロットスーツにも心にも傷がない士官学校出たてのヒヨッコパイロットがいる。 まだまだ練度の低いパイロットだが、センスはいいし何より素直で伸びしろがある。育て甲斐があるバディだ。 「そうか。お前も着替えが早くなったな」 「中佐ほど手慣れてはいませんが……」 「マハト少尉、君のような若い者が私ほど手慣れていてもらっては困るよ」 「はい、中佐の御経歴は存じ上げております。私など比較にもなりません」 「比較する必要はない。同じ軍人だ。1つの戦争が終わればまた功績なんてものはリセットされる」 いくつもの戦争をくぐり抜け、幾多の戦闘を経験しても、結局1つの戦争が終われば軍人はそこで選択に迫られる。 次の戦争に参加するか、軍を辞めるか、だ。 次の戦争に参加するにしても、そこでまたどちらの軍につくかという選択を迫られる。 人生とは選択とリセットの繰り返しだ。
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