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みぃん、みぃん、みぃん
じぃ・・じぃ・・じぃ
ギリギリギリ
ジリジリジリ
深緑の夏。
虫達の大合唱と、ギラギラと照り付けてくる暑い陽射し、僕が思う夏はいつも賑やかだった。
夏休みともなれば、昼時の商店街は活気に溢れ、幼子の手を引く母親達で溢れる。
僕達は、そんな中を部活の午前練の帰り道、人混みを避けながら裏山に向かっていた。
「俊也!光香ちゃん亭のコロッケ買ってこうぜ」
「ほんと、櫂斗は光香ちゃん亭好きだよね」
この時、僕、上田俊也(うえだとしや)は中二。
そして、幼なじみの藤原櫂斗(ふじわらかいと)も中二。
野球部で汗を流し、キラキラ輝く未来を信じ、夢にときめいていた。
「おっちゃーん!コロッケ三つ、一個はカレーコロッケにして」
歴史を感じる店構え、薄れ霞んだ『光香ちゃん亭』と書かれた看板。
光香ちゃん亭は、僕らの町内では有名な揚げ物屋さんだった。
櫂斗は店の中央でどっしり構える人に、慣れた風に注文した。
「おう、櫂斗に俊也じゃないか!これでも食ってちょっと待ってろ、揚げたて出してやっから」
そう言って味見用にヒレカツ串を出してくれたのは、光香ちゃん亭の店主、新井米蔵さん。
コロッケ買いに来て、丸々ヒレカツ串くれちゃったら商売成り立たないだろうに、新井のおっちゃんはいつもこうだった。
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