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『……莉那……っ!  お、おい……! 莉華子……ッ!!』 背中を屈めてお腹を隠そうとするわたしの後ろで、パパがママの名前を絶叫した。 すぐにやってきたママを、パパは責めた。 『莉華子、あれはどういうことなんだ!?  お前は知っていたのかッ!?』 ふたりがどんな顔をしているのかは、わからなかった。 見る勇気がなかった。 部屋を開ける直前、いつの間にかわたしを追いかけてきていたパパに、強く腕を掴まれた。 『これはどういうことなんだッ!! 莉那ッ!!』 生まれて初めて聞いたパパの怒号。 男性の威圧するような声が、こんなにも恐怖を感じるものだということを、このとき初めて知った。 わたしの周りにいる大人達は、上っ面のおべっかばっかりを口にしていたし、 ……彼はいつだって、とても耳触りの好い柔らかな口調だった。
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