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* 「そうちゃん」 こつこつ、と窓ガラスを打つ軽快音と共に聴こえたのは、耳障りの好い愛らしい声。 ベッドに寝転び、本を開いていたおれを呼ぶその声に、弾む心音と……冷静を繕おうとする頭を、せめぎ合わせながらゆっくりと身体を起こした。 栞を挟む余裕なく本を閉じ、ひとまず、ベッドに対面する部屋の扉まで歩み寄る。 静かに鍵を回し廊下側からの侵入を遮断すると、湧き出す背徳感を引き連れ、ベッドの足下が向けられる濃紺のカーテンを引き摺る窓際に歩み寄った。 逸る鼓動を小さな深呼吸で浄化し、カーテンを開くと、 「お前、また……」 黒塗りに自分の影を反射する窓の向こうに、先程おれを呼んだ声の主である真ん丸の円らな瞳が部屋の中を覗いていた。 小さく溜め息を零し、胸中とは相反する表情を見せつける。 渋々といった雰囲気を露にしつつ、円らな瞳の待ち構える窓ガラスをからりと解放した。 「りな、どうした?」 「またあの人に会わなくちゃいけなくなったの……今日夕食会だって……」 窓の外の一段低くなる位置から、長い睫越しに上目遣いの円らな瞳がおれをみつめる。 前髪に隠れる眉毛を下げ、ぼそぼそとここに来た理由を述べるりな。 「……行きたくなくて……」
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