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ぎゅっと目を瞑った暗闇の中に、泰地さんに寄り添う彼女の姿が浮かぶ。 痛む心臓をかばっていると、額と掌の触れた扉から、カチ、と音がした。 はっとして扉を見上げる。 ……いた…… 扉の鍵を開ける音に、さらに鼓動が速まる。 脇にあるドアレバーに視線を移し、ためらいながらもそこに伸ばす手は……ひどく震えた。 ゆっくりとレバーを下ろしきると、そのまま扉を押す力に変える。 少しできた隙間から、嗅覚と本能を刺激する甘い香りが溢れ出してきた。 手の先から全身をなぞり上げるように包み込んでくる彼女の匂い。 こんなに強く彼女を感じたのは、もうずいぶん遠い昔のことだったかのようだ。 落としていた視界に映るのは、懐かしさを覚える薄いピンクのカーペット。 そして、少しだけ目線を上げると、そこにたたずむ華奢な脚をとらえた。
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