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どくりと、鈍い音を立てる心臓。 「……どう、して……何も、言ってくれなかった……」 こんなにも、愛しいのに…… 「なんで、おれは……気づいてあげられなかったんだ……」 「……そうちゃんは……」 歯噛みするおれに、今にも崩れてしまいそうな震える声が届く。 「なんにも、悪くないよ……」 その現実から目を逸らし、溢れ出さんとする涙を蓄えるつぶらな瞳を見つめた。 どうして、りなから目を離してしまったんだろう。 どうして、本当に見なくてはいけない現実から、目を逸らしてしまっていたんだろう。 悔やんでも悔やみきれない後悔が、おれを責め立てる。 りなが学校を休んだということを知ったときも、 文化祭の日の冷めた声も、 おれが見つめると怯えてしまう瞳も、 それらのもうひとつの可能性の理由に、……おれは薄々気づいていたのに。
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