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もしかしたらと思っていた。 ほんの少しの可能性を、儚い希望に乗せた。 自ら求めなくても、りなを自分のものにしてしまえる可能性を。 こうなるかもしれないということは、わかっていた。 おれはこの多大なる事態を、 妊娠させる可能性を、……悪しく、望んでいたから。 でもおれは、事実をはっきり確かめようとはしなかった。 怖くなったんだ…… ……そうなる現実が。 急に襲ってくる現実という恐怖から目を背け、知りえる状況を自ら遠ざけていた。 いくら見限られたからといっても、事実を問いただすことくらい簡単にできたはずなのに。 おれは、怖くなった。 怖くて、……彼女から、逃げた。 そばにはいられないからといいわけをして、見限られたんだと失意に身を委ねていた。 あの日おれは、りなをそばに置いておきたいがためだけに、 希望と言えば聞こえがいい、ただの欲望を吐き出した。 りなの気持ちも考えずに、そうなってしまえば仕方がないんだと、周りに知らしめたくて。
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