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言いたくない……
言いたくない……
そんなこと、今まで一度だって思ったことない。
これから先だって、一生あるわけない。
でも――……
「ごめんね……そうちゃん……
……わたし……
……泰地が、すき――……」
自分の口が、自分のものではないような気がした。
誰かがわたしの声で、わたしの口にアテレコして、勝手なセリフを乗せただけ。
これは作り物の世界で、わたしと彼の本当の世界は、また別のところにある。
涙で滲む視界が乾けば、またこれまでどおりに、彼との日常が戻ってくるはず。
……そんなことを本気で考えるくらい、わたしは現実の世界から逃げてしまいたかった。
だけど、実際に目の前で見たのは、彼の心が壊れる瞬間。
いつも綺麗だった瞳は輝きを失くし、口端に血を滲ませた顔からは、感情の一切が消えてしまった。
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