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「りな……」
わざとらしく溜め息を混じえ、口唇に馴染む名前を小さく呼ぶ。
でもその呆れた声に、心の内から溢れ出す愛しさが、つい滲んでしまうのは、やはりいけないことだろうか。
「お前、あんまり泰地さんに心配かけるなよ」
たしなめるおれに抗うように、背中のシャツを、ぎゅっと握り締めてくるりな。
「別にいい」
「よくない」
冷ややかな理性を見繕うおれを逆撫でするように、シャツを握り締める小さな掌に力が込められると、更に深く顔が胸元に押し付けられる。
「また親に煩く言われるんだって。巽(たつみ)んとこのお嬢さんに手出すなってさ……」
そう言うと、おれの深くに潜り込もうとしてきた頭がぴたりと静止し、……目一杯に潤んだそれを見せ付ける為に、円らな瞳が、じっくりとおれを見上げてきた。
きらきらと儚く潤み、切なげにおれを捕らえる瞳に、く、と軽く心臓が絞られるのを感じていると、背中に張り付いていたりなの手が、おれの首根へと回り込んできた。
「バレなかったらいいんでしょ……」
微かに頬を染め、潤む円らな瞳がおれを吸い込んでいく。
あ、や……ばい……
思った瞬間、理性の崩壊を促す切なげな顔が間近まで登り詰めてきて、
……柔らかな唇が、ふわ、と押し当てられた。
「……」
おれは抵抗する事無く、……安易にその行為を受け入れてしまう。
手出されてるのは、多分、おれの方だ……
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