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「……明日……」
「うん……?」
息を継ぐために離した口唇を、もう一度近付けようとしたところで、胸板を軽く押してきたりなに、止められてしまった。
「ほんとに、来ないの……?」
あと少しだけ力の加わった小さな掌に押され、目元しか見えていなかった視界に、愛らしい顔全体が映り込んでくる。
「……」
無言の返答に、見下ろすつぶらな瞳へ哀しみが射した。
慰めになるとは思わなかったけれど、伏せ目がちになるりなに声を掛ける。
「楽しんでこいよ」
「楽しめないよ」
明日から3日間、りなに会えない。
例の行事に、参加するためだ。
ここ何ヶ月間か、毎日のように顔を合わせていたのに、
……3日、も……会えない。
こんなに女々しかったのか……おれは……
会えないと淋しい、なんて。
いや、少し違うか……
焦ってる、かな。
近付いてくる色の無い未来に、タイムリミットを迫られているんだ。
……傍に居られるのも、あと少しだと。
だから、毎日のようにりなを求め続けているんだ。
「帰ったらまた、……キス、しよう……ね?」
おれは、あからさまに淋しそうな顔でもしたんだろうか。
りなに、……慰められた。
「……ああ」
溜め息のような返事をしながら、極僅かな時間も惜しむように、……愛しい顔へと、再び口唇を近付けた。
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