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「惣一! 誰か居るの?」 返事をしないおれに痺れを切らした母親が、鍵のかかった部屋の扉をノックする。 目を伏せてごろごろと摺り寄るりなの丸い頬を撫でていた手の親指で、声を出さないよう、柔らかな口唇を、ふに、と軽く抑えた。 「いや、電話してた。友達が用あるからって。ちょっと出てくる」 母親が待ち受ける扉の向こうに向かって、咄嗟に嘘を返す。 「あらそう。遅くならないようにね」 「ああ」 部屋から離れる母親の足音に聞き耳を立て、再びりなに「帰るぞ」と促すものの、 当然、返事は…… 「……」 ……ない。 丸い頬っぺたを膨らませ、薄っすらと開いた瞳は、おれを視界に映さず俯いた。 あーあ、また不貞腐れて…… 目一杯に膨らんだ頬っぺたを両手で掬い上げ、尚も合わない視線を覗き込み、きゅ、と両掌に力を加えると、 ぶっという間抜けな音と共に、愛らしい顔が唇を尖らせた顔になった。 くくっ、と思わず馬鹿にした笑みを零すおれに、 「そうちゃんの馬鹿」 再び頬を膨らすその顔は、馬鹿面なのに、 ……堪らなく愛おしい。 潤む円らな瞳は、何かを訴えるように、やっとおれを見返してくる。 親指をふっくらとした口唇に、す、と這わせると、くすぐったく肩をすぼめる仕草に、 キス、したくなる…… まずいな。 抑えが……効かなくなりそうだ。
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