18/18
1230人が本棚に入れています
本棚に追加
/269ページ
「やっぱり受験生は忙しいか」 「……そんなんじゃない……」 泰地の言葉に、小さくて身勝手な苛立ちが生まれ、ふてたように応える。 「そうちゃん、今年は来られなかったんじゃないよ……」 「……」 「……来ちゃ駄目って、言われたの」 泰地を困らせるのを承知で、彼からの話を脚色して低く呟いた。 「また、うちの親父がなんか言ったんだろ。……そういうの全然構わないって、いつも言ってるのに」 心の底から吐き出される泰地の溜め息に、偽善なんてものは見つからない。 だから余計に、嫌味に呟いた自分が滑稽に思える。 泰地は、ずっと前からそうだ。 婚約者のくせに……わたしと彼の気持ちを、かばうようなことを言う。 もしかしたら泰地にも、他にすきな人が居るのかもしれなくて、 わたしとの結婚なんて、本当は望んでなんかいなくて、 いつ婚約を撤回しようかと、時期を見ているのかもしれない…… そんな風に思えるほど、……泰地はいつだって、なぜか“わたし達”を気遣ってくれるのだ。 「そろそろコテージ戻ろうか。そうめん流し、準備してくれてるはずだから」 「……」 「ここ、携帯の電波入らないんだな。とっくに昼過ぎてるのに呼び出しの電話も掛かってこないはずだ」 「……」 「連絡、取れないと……心配してるかもしれないな」 「……」 「大人達」 泰地がもっと、強引で陰湿な人だったら…… それを引き合いに、思い切り突き飛ばして、今すぐ彼の元へ飛んで行くのに…… 「……うん……」 泰地はいつだって、わたし達の心を察知して、 こんな風にさりげなく……気遣ってくれるんだ…… .
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!