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「うっ」
思わず声を漏らすほど、車のトランクから持ち上げようとした赤いスーツケースは、なかなかの重量があった。
たかが二泊三日の別荘旅行にしては、大袈裟すぎる大きさだ。
家を出るときはパパが載せてくれたからわかんなかったけど……
荷物、最小限にしたつもりなんだけどな。
「おはようございます」
大きな声で、でも穏やかに声を掛けてきたのは、……そうちゃんのパパ。
運転席から降り立ったパパへと歩み寄るおじさまの姿に、わずかながらに胸が躍るのは、
そうちゃんの長身と柔和な瞳の穏やかさが、間違いなくその人譲りのものだとわかるからだ。
親しげに話しかけ、でもやっぱり気遣うようにパパの手荷物を取り上げるおじさまの様子を見れば、主従関係は一目瞭然だ。
せっかく、避暑地に憩いを求めてきたのに、すぐさま難しい話を始める二人を横目に、目下の赤い箱に視線を戻した。
パパに頼むのは諦める……
「よっこいしょ……」
なんとも若者らしからぬ掛け声を口にしながら、トランクからスーツケースを引きずり上げていると、
後方から伸びてきた手が、わたしの手をかばうように取っ手を掴んだ。
全く重みを感じることなく持ち上がるスーツケースを追い振り返ると、
「おはよう」
そうちゃんが、おじさまとよく似た笑顔でわたしを見下ろしていた。
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