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心地好い胸のときめきに、へへ、と笑いながら、いつものようにすぐそばで目の保養をするわたしに、そうちゃんは「なんだよ」という顔をする。
ううん、と首を振ると、呆れながらも微笑んでくれるそうちゃんは、勢いをつけて車のトランクを閉めた。
パパ達の大きなバッグを両肩に二つ担いだそうちゃんが、わたしの赤いスーツケースを手にしようとしたところで、
「惣一!」
少し離れたところから、そうちゃんを呼び捨てる声が聴こえた。
屈みかけた背中を伸ばし、顔だけで振り返るそうちゃんの視線と一緒に、駐車場から渡るアプローチの先のコテージ入り口を見遣る。
「……」
緑に囲まれる階段の手すりに手を掛け佇んでいたのは、ロングの髪をサイドにまとめたすらりとした美人さん。
綺麗な黒髪を受け継がせた、そうちゃんのママだ。
呼ばれたのに返事をしないそうちゃんへと視線を引くと、綺麗な横顔が……わずかに曇ったような気がした。
「ちょっと」と再度呼ぶおばさまの声に、小さく溜め息が吐かれると、
うちの車の到着より、ほんの少しだけあとに入ってきたもう一台の車のドアの開閉音が耳に入る。
そちら側へと、ちらりと横目を向けると、……ほんわかと熱くなっていた胸の奥の方で、気づきたくない予感が、ざわ、と不快に蠢いた。
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