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視線を戻したときには、すでにそうちゃんはコテージへと足を進めていた。
まだすぐそこにそうちゃんは居るのに、真夏の太陽がわたし達の間に見えない壁のような陽炎を差し込んでいる気がする。
強い熱気で二人の接近を阻む蜃気楼に、遠退いていく背中の足取りの重さが、わたしの心にも比重をかけてきた。
その重みに引き連れられるように、少しだけ目線をうつむかせると、
……わたしの足下には、“あえて”置き去りにされる赤いスーツケースが、虚しく陽に当てられている。
「……」
陽射しは熱いのに……
微笑み合うだけで、心は温まるのに……
……どうして周りは、わたし達の間に冷たい水を挿すのだろう。
どうして、だなんて、問うに値しないわかりきった答えを直視しないように、一度深い瞬きをすると、
「おはよう、りな」
車の脇から回り込んできたらしい穏やかな声にゆっくりと開いた眼は、眩むような真っ白の陽射しに当てられて、強く痛んだ。
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