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* 自転車を走らせながら切る闇夜の風は幾分涼しいものの、夏の空気はやっぱり温い。 それでも、不快を感じないのは、背中に密着する愛しい温もりのお陰だ。 自転車の荷台に乗せたりなが、おれの腹部にしっかりと腕を巻き付け、不貞腐れたまま呟いた。 「このまま、どこか行きたい……」 「……」 「誰も、居ないとこ……行きたい」 「……」 りなの呟きは、誰に受け止められるでもなく……闇夜に溶ける。 誰に、というよりは、明らかにおれに向けられた言葉が、虚しく消え失せながらりなを傷付ける。 そして、何の返答もしないおれ自身が、痛んでいることも……恐らく、りなは承知だ。 おれだって、出来ることならそうしたい…… 刻々と迫り来る未来の現実から逃げたいと、りなは時々おれに訴えてくる。 二人が後々傷つかないようになんて、りなとの距離を取ろうとしているおれは、 結局、自分の傷を最小限に留めようとしてるだけだと思う。 一番辛いのは、りななのに。 腹部に回された華奢な手に、ぎゅっと自分の手を絡める。 誰に願うでもないけれど、……思わずにはいられない。 ……今のこのささやかな幸せを、 もう少しだけ感じていてもいいだろうか、と。
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