理由=勘違い

2/2
前へ
/4ページ
次へ
ずっと待ってたのに。 そう言って、彼を余計遠ざけたのはいつだったか。 彼女でもないのに勝手に隣に立って、勝手に同じ歩幅で歩いて、勝手に傍にいた。 だって、いいじゃない。笑いかけてくれたじゃない。 私の一言一言をにこやかに聞いてくれて、そうだねって、優しく相槌をうってくれたのに。だから幸せだったの、だから、調子に乗ってしまって。 勝手に彼を待っていたのは私。だって、下駄箱前でいつも待ってたの。なにも言わないで曖昧に笑って、手を繋いで帰路につく。これが私の一番幸せな時間だった。 ある日、いくら待っても彼は来なかった。 次の日も、その次の日も、いつもの場所でずっと待ってた。 結局彼はこないまま、私のなかで満たされていた幸せな時間が、温かな気持ちが、とけて、ちって、消えていく。 移動教室の途中、廊下で偶然彼に会った。 久しぶりに視界を埋める愛しい彼に、奥から込み上げる、この感情は、なに。 ずっと待ってたのに どうしてきてくれなかったの 胸中、色々な言葉がぐるぐるとまわるなか、口から零れたのは、彼を責める言葉だけ。 目に涙をためながら喚くように吐き出したあと、彼をみた。困惑と、気持ち悪いものをみるような、あの視線 「…彼女面、しないで欲しい」 頭が真っ白になった 腕を絡めるから逃げられなくて 傍に寄るから邪険にできなくて それでも踏み切った理由は、彼女の涙 そう淡々と話して、彼は去っていった。 迷惑だと、彼は言った。 そうか、彼女、いたのか。すとんと腹におさまる感情、きっとわかっていたんだろう、本当は。 奪えると思ったの、彼はやさしいから でも奪えないって、わかってた。だから甘えてたの、彼は、やさしいから。 はじまりのチャイムが校内で響く。わかってたのに。ああ授業がはじまる。わかってたのに。遅れちゃう。わかってたのに、わかってたのに、わかってたのに、 「…すきだったの、すきなの、すき、」 閑散とした廊下には、涙で震えた私の声だけが響いた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加