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ずっと待ってたのに。
そう言って、彼を余計遠ざけたのはいつだったか。
彼女でもないのに勝手に隣に立って、勝手に同じ歩幅で歩いて、勝手に傍にいた。
だって、いいじゃない。笑いかけてくれたじゃない。
私の一言一言をにこやかに聞いてくれて、そうだねって、優しく相槌をうってくれたのに。だから幸せだったの、だから、調子に乗ってしまって。
勝手に彼を待っていたのは私。だって、下駄箱前でいつも待ってたの。なにも言わないで曖昧に笑って、手を繋いで帰路につく。これが私の一番幸せな時間だった。
ある日、いくら待っても彼は来なかった。
次の日も、その次の日も、いつもの場所でずっと待ってた。
結局彼はこないまま、私のなかで満たされていた幸せな時間が、温かな気持ちが、とけて、ちって、消えていく。
移動教室の途中、廊下で偶然彼に会った。
久しぶりに視界を埋める愛しい彼に、奥から込み上げる、この感情は、なに。
ずっと待ってたのに
どうしてきてくれなかったの
胸中、色々な言葉がぐるぐるとまわるなか、口から零れたのは、彼を責める言葉だけ。
目に涙をためながら喚くように吐き出したあと、彼をみた。困惑と、気持ち悪いものをみるような、あの視線
「…彼女面、しないで欲しい」
頭が真っ白になった
腕を絡めるから逃げられなくて
傍に寄るから邪険にできなくて
それでも踏み切った理由は、彼女の涙
そう淡々と話して、彼は去っていった。
迷惑だと、彼は言った。
そうか、彼女、いたのか。すとんと腹におさまる感情、きっとわかっていたんだろう、本当は。
奪えると思ったの、彼はやさしいから
でも奪えないって、わかってた。だから甘えてたの、彼は、やさしいから。
はじまりのチャイムが校内で響く。わかってたのに。ああ授業がはじまる。わかってたのに。遅れちゃう。わかってたのに、わかってたのに、わかってたのに、
「…すきだったの、すきなの、すき、」
閑散とした廊下には、涙で震えた私の声だけが響いた。
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