第零章

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 鴨川を下って行くと、キン、ガキン、と金属音が斜め前方から聞こえた。  身体が強張るのが分かる。(何があるんだろうか。此方に来るのか?)不安が募った。だが、気を持ち直して音のする方へゆっくりと向かった。鞘尻を掴む手に力が加わる。  「此方に来たのなら、立ち向かえば良い。おれは武士だ」  下人は自分に言い聞かせるように呟いた。  不意に音が止んだ。反射的に駆ける。向かうのに邪魔な枝を鞘から刀を抜いて、斬り払う。  視界が開き、人が倒れているのが見えた。そして、近くに立っている人影は下人ともう二人居た。  二人は辺りに散らばる財貨をかき集めていた。突然乱入した下人に気づき、血の滴る刀を持って殺気立った。  下人が構える。すると、周りの空気が張り詰められ、緊迫する。  二人のうち頬に傷を持った、気性の荒そうな男は先に動いた。大振りに刀が振るわれる。下人は屈んで男の刀を避け、自分の刀を男の喉に向け、突きをし、素早く抜いた。  喉を貫かれた男が数瞬後、ヒューヒューと喘いで怒り狂って下人に襲い掛かる。下人は足を引っ掛けて転ばせ、背中を蹴ってもう一人の片目の潰れた男に向かった。  虚を付かれ、留まるも片目の潰れた男は下人と刀を交わし、跳び退く。下人の手が痺れる。相手の力が強いことが分かった。  背後の男が立ち上がって刀を振り下ろそうとするのを視界の端で捉える。下人は横に跳んだ。ギーン、と刀と刀がかち合う音がする。  「終わりだ」下人が言った。
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