第零章

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 頬に傷を持つ男は片目の潰れた男を斬り裂き、片目の潰れた男は頬に傷を持つ男の胴を斬った。相撃ちである。留めに下人が二人の男の首を跳ねた。  「…ッハァ、…ハァッ……」  首なし死体が二つ、重なるように倒れた。下人の鼓動が乱れ、呼吸がままらなくなる。  首を跳ねた刀は血に染まり、返り血が身体に付着する。その気持ち悪さに下人は眉を顰(ひそ)めた。  口を拭って、下人は殺した男二人を見つめた。ジワジワと赤黒い血溜まりが地面を染めている。  (やはり、気持ちが悪いな)人を殺したというのに気持ちが悪いとしか感じない自分に、苦笑した。(今世が荒れているから、か。人殺しに馴れてしまったな…)懐から懐紙を取り出し、刀から滴る血を拭き取る。刀は濁って、白銀の光は息を潜めていた。  下人は赤く染まった懐紙を捨て、新たに手拭いを取り出し、近くに転がっている竹筒を手に取った。  刀を地面に突き立て、手拭いに竹筒の水を湿らせた。竹筒を脇に挟み、引き抜いた刀を手拭いで何度も拭く。  濁りが取れたのを見て、刀を振りかざした。陽の光を反射して白銀に輝く。それに下人は鼻を鳴らす。そして満足気に笑って、刀身を鞘に戻した。  それから、脇に挟んだ竹筒と盗賊二人が漁っていた金目の物を風呂敷に包んでいると、愚図る声が聞こえた。  バッ、と振り返るが誰も居ない。気のせいか、と思ったが、愚図る声は一際大きくなった。
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