第一章

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 夜が明ける。東の空から昇ってくる光は、まだ暗い都を徐々に照らしていく。  下人が平安京から離れて三年余り。下人の本家では昨年の保元の乱により不穏な空気が漂っている。  下人が盗賊に殺された名も知らぬ母親から拾った幼子は数え年で六歳となった。名は弥彦(やひこ)と下人は名付けた。ひょろっとして小柄だが、顔に浮かぶ満面の笑みは下人の心を温める。小柄なため軟弱に見えるが、下人との旅によるものか、はたまた才能か。武術は相当のものである。  そして今、下人と弥彦は転々と旅をして、今再び京に戻った。荒れていた家々は建て直され、早くも賑わっている。下人が京から旅立った時とは違っていた。  弥彦は下人の隣を歩きながらキョロキョロと辺りを見渡す。初めて見る賑わいのある町に興味津々の様子だ。  「そう焦るな。暫く留まるのだからじっくり見れる。辺りを見渡すばかりだと転ぶぞ」  下人はフッ、と微笑み、右手で弥彦の頭を軽く叩いた。  「うっ。だ、大丈夫ですよ!父上」  弥彦はカッ、と頬を赤らめ、口を尖らせそっぽを向いた。  けれど、その行動をも笑われ、弥彦は唸る。  「はははっ、すまんすまん。そう拗ねるな。まあ、そろそろ人の波が激しくなるのでな、私と手を繋がんか?」  下人は体を少し屈め、弥彦の顔を覗き込む。手を弥彦の前に出すと、パッと顔が輝いた。  
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