2人が本棚に入れています
本棚に追加
通称、鷲の十字架はその長く紅蓮に光る自分の髪を一つにまとめて、その大きく口を開いている門へと、まるでセールスマンが営業先へ入るような赴きでゆっくりと入っていった。
通された先にはいかにも高級品といった感じのアンティーク机。黒光りする革張りのソファー。振り返って案内してきた執事らしき人物を見ると優雅に微笑まれた。
うわーぉ。どんだけお偉いさんなんだよ、今回の依頼人は。頭の隅っこでそう毒づいて、手で示されたソファーに浅く腰をかける。
「申し訳ありませんが、少々お時間をいただきます。もう少しでご到着されると思いますので」
呼び出しといて遅刻かよ。ま、貴族気取りのヤツはたいていそういうもんだから慣れてるけど。
案内をしていた長身の黒服は、俺に小さく会釈をした後、この部屋から出て行ったまま帰ってこない。些細な行動一つとっても、非の打ち所のない完璧な動きだったから、ただの成り上がりの家ではないのだろう。 視線をくるりと動かして部屋を眺めてみる。あくまで、さりげなく。ただ、なんとなく視線を動かしたように見えるように。
監視カメラが三つ。広い部屋でもないくせに厳重だ。外の人間を入れたらここにくれてくる決まりかなんかだな。主人が出払っているというのが嘘か本当かは知らないが、少しの時間を待たせて反応を見るのが通例なのかもしれない。
持っていた鞄を足元に置く。ついでに床に何か危険がないか確認しつつ。特に異常なし。カーペットにはしみ一つない。それが逆に不自然だが、もしかしたら来客があるたびに買い換えているのか。
壁際には古そうな木製の時計と狩猟用の銃がかかっているが、銃は使い物にならないただの見せ掛けの玩具。棚の中にあるアンティーク人形の方がヤバイ。小型の吹き矢のようなものが仕込まれているはずだ。
頭の中で襲われた場合をいくつか想定しておく。三パターン目の脱出方法を考えているとき、ドアの外にバタバタと走る寄ってくる足音に気付いた。
「……なんか嫌な予感するんですけど……」
生命の危険が迫るような嫌な感じではないが、精神的な苦痛を負わされるような気がする。
言うまでもないことだが、俺の勘は外れたことがない。
「逃げちゃおっかなー……」
最初のコメントを投稿しよう!