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……って、逃げられるわけねぇよな。この部屋から。ドアを開けたとたんに蜂の巣になるは確実だ。だから嫌なんだよ、妙に設備が整ってる家って。ここまで厳重に自動式レーザーなんてつける必要ないっつうの。
しおらしくため息をついたとき、今まで沈黙を守っていた重そうな木製のドアが勢いよく開いた。
「あ、」
驚いた声を出してそこに顔を覗かせたのは、まだ、女と表現するには幼すぎる十五、六の少女だった。青に黒を混ぜ込んだような深い髪の色に、似合わない桃色のドレス。走ってきたせいか、もとは白いだろう顔が今は真っ赤に染まっていた。
……おいおい、まさか……この子が依頼人でした、……なんてオチじゃなぇよなぁ?
ふとよぎった不安に、俺は顔が引きつった。ちなみに、そういった予感も俺は外れたことがない。
「あのっ、好きですっ!!彼女にしてください!!!」
目の前の少女は、不自然に笑顔を固まらせている俺に臆面もなくそう言い放った。
「期限付きの恋人……ですか」
はぁ、やる気がおきねぇ。何でまたこんなことになったんだか。
「はい、その、娘が先ほどは失礼いたしました。すいません、思い込みの激しい子でして」
今、目の前にいるのはあの子の父親である、依頼主のクーベル・R・メフィア氏。
銀行からデパート、保険屋、ホテル、車、製薬……などなど、この世界にその名を知らずに過ごす者などいないといっても過言ではないほどである、あの偉大なメフィアグループの会長兼代表取締役。……仕事は選ぶべきだと心底思った。
その今問題になっている彼の娘は、あわてて来た執事たちに諭され、おとなしくドアの向こうへと帰っていっている。
「いえ、まぁ、さっきは確かに驚きましたけど……、どうしてこのような依頼を?」
娘とは似ても似つかない丸々とした顔に、汗が噴き出すように浮いている。メフィア氏は少しだけ困ったように眉をひそめて、ゆっくりと話し出した。
「実は娘は求婚を申し込まれている最中でして、その、私の懇意にしている宮廷貴族の方なんですが、そこの息子さんが私の娘をいたく気に入ったらしいんです。私は娘の結婚は娘が決めるべきだと主張したのですが」
「技術支援を盾に取られたのですね」
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