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要するに断ればこれから金と人件は払わない、と。
「あの、はい、そうです……。お恥ずかしい。このような失態を招いたのは私の責任です」
肩を落として疲れたような笑い方をした依頼人に好感を持つ。ま、親子愛っていうのはいいもんだからな。いっちょ協力してやるか。
「それで、娘さんは何故私をご指名に?」
依頼書には、成功報酬の金額に上限は設けないと書かれていた。俺がこの依頼に惹かれた理由の一つだ。
「それは私にも分かりません。娘に先ほどの事を言いましたら、この人に頼めばどんな仕事でもこなしてくれると、パンフレットのような物を見せられまして、あなたに依頼を出すことにしました」
娘を完全に信頼しているんだな、この親。そこまで信じ込ませるほど、責任能力を持っているような人物には思えなかったが。
「あの子は、優しい子です。自己犠牲を少しも厭いません。私はそれが悲しい。
……あの子が幸せであれば、この家などどうなってもいいのに」
独り言のように呟かれた最後の言葉は、俺に届くことなく空気に霧散して消えた。
久しぶりの表の依頼。内容はどうであれ、殺しがない依頼である。コレがこの依頼を受けた二つ目の理由だ。 重々しい門を通って通りに戻ると、そこには派手にうねる金髪を無造作に背中に流した女が立っていた。
「お疲れさま、イーグル。今回の依頼はどんな感じだった?」
女、ぺルカは吸っていたタバコを道に投げ捨てると、にんまりと口角を上げて俺を見上げる。サングラスから覗く目が面白がっているのが一目で分かった。
相変わらず嫌味な女。
「……別に」
「あらぁ、嬉しくないの?初々しい女の子の恋人役なんて」
鋭い視線を当てると、金髪は小さく肩をすくめてヒラヒラと手を振った。
「ここのおしゃべりな女中に聞いただけよ」
「分かってるんだったら、早くどっか行けよ。俺はもうイーグルじゃない」
小さく忍び笑いをして、ぺルカは去っていった。
ふっと息を出す。
「そんなところに隠れてないで、出てきたらどうですか?お嬢さん」
近くにあった植木が不自然に揺れる。しばらくして観念したのか、頭に葉っぱをつけたまま依頼人の娘、つまり俺の現恋人であるティティ・R・メフィアが現れた。
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