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まずい、不必要な事をしゃべった。彼女とは依頼だけがつながりであるはずなのに。
「あなたには関係ありませんよ。ティティお嬢様」
そう、できるだけさわやかな笑顔で答える。ティティは少しだけ、むっとしたように顔をゆがめてこちらを見た。
「それでは、案内いたしましょう。お世辞でも美しいといえる家ではないので、ご容赦を」
ティティは観念したようにため息をついて、そっと俺の腕を取った。そう、それはまるで恋人のように。
まったく、ため息つきたいのはこっちだぜ。
大通りから二つ外れた路地裏。酔っ払いや娼婦などが昼の睡眠を取っている。ティティは道端に寝転がっている浮浪者たちにいちいちびくつきながら俺のそばを一時も離れずついてきた。
そんなにビビるんだったら、俺の家なんかで暮らすなんていわなけりゃいいのに。そうは思いつつも、これから新しい部屋を探せなどと言われては面倒なので、何も言わない。
……世間知らずのお嬢様と暮らすなんて、俺、大丈夫か?途中で義務を放棄しそうで嫌だ。この依頼の報酬は無限。それを頭の第一においておかなくては。
「あの、どこに住んでるんですか?」
後ろを振り返ると、不安そうな色をした紺色の瞳と目が合う。
「……もう少しですよ」
そう言ってニコリと笑えば、たいていの女は赤くなって黙る。ティティもその例に合うように顔を真っ赤にして伏せた。
……子供子供してても、心は立派な女ですよってことか。面倒くさいな。
「……私のこと、面倒だなって思ってるんでしょ?」
ピクリと頬が引きつる。コレだから嫌なんだよな、女って。変に勘くぐってヒステリーを起こす。
「ごめんなさい」
その言葉に、態度には出さないが少し驚いた。てっきり嫌味か泣き言が飛んでくるかと思っていた。今までの行動が行動だけに。
ティティは顔を上げ、まっすぐに俺を見る。
「ごめんなさい、でも、私、どうしても結婚したくないんです。迷惑なヤツだって思ってると思うんですけど、でも、たった二週間ですから。私、絶対に他のお仕事の邪魔とかしません。お願いします、今回の依頼、成功させてください」
初めて見た真剣な顔。子供から完全に抜けきって、大人びた何もかも知っている顔。何を知っているのか、俺にはまだ分からないが。
「依頼は正式に契約された。俺がこの依頼を破棄する気はない」
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