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あからさまにホッとしたような顔つきになる。多分、大通りでの出来事を気にしているんだろう。……少し灸をすえておこう。
「ただ、アンタの父親、つまり俺に金を支払ってくれる依頼人を通さずにさっきみたいな事情の持ち込みはやめてもらえないか?混乱する」
「ご、ごめんなさい」
さっきとは打って変わった子供みたいな謝り方。……どっちの顔が本当のあんたなんだ?
「もういい。あと五分もすれば俺の家に着く。それまでおとなしくしてろ」
そう言うと、音が出そうなほど背筋をまっすぐに伸ばして俺の後ろについた。面白いヤツ。不覚にも口元が緩んでいたことに、道の脇にある窓ガラスに映った自分を見るまで気付かなかった。
狭い通路を抜け、三番目のドアを短く二回、一回、三回分けてノックする。二回のノックの返事が返ってくると同時に、五番目のドアの鍵の開くことが聞こえた。
相変わらず面倒だな。ここの家の管理って。
ティティは特に驚いた様子もなく俺の後をすんなりとついてきた。
「……なんか、気にしてない顔だな」
その言葉に少し首をかしげるように俺を見る。そして、あぁ、と返事が返ってきた。
「屋敷はもっとすごいですよ。金属検査に指紋に、声に、暗証番号にパスワード、あと、警備員さんにカードのチェックと網膜ナントカってありますから」
……入るのにやたら時間がかかったのはこういうわけか。金属に関する武器持ってきてなくてよかったぜ。
「……不安じゃねぇの?いきなりこんな警戒の薄いとこきたら」
「そんなことないですよ。ここって他に比べたら、すごく警戒心の強いところみたいですから。鍵を開けるだけでノックを三パターンもするアパートなんて初めて見ました」
へぇ、ただの世間知らずじゃねぇんだな。
一応、忠告するために立ち止まり後ろのティティを振り返る。
「……じゃ、今ので覚えたよな。俺がいないときに一人で家から出たら、二度と俺の部屋には入ってこれなくなるぜ。あんたは今、俺の依頼人ってだけなんだからな」
コクリと小さく頷いたあと、ティティは不思議そうな顔をして俺を見上げる。
「依頼人じゃなくて恋人でしょ?もう」
……本ッ当に、この女は。
「そうでございましたね。ティティお嬢様」
恋人という役をお望みならなってやる。その意思の込めてにっこりと微笑んでやれば、ティティはあからさまに気分を害した顔になって、そっぽを向いた。
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