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「でも、そっか……。おめでとう」 「ありがとう佐智子。あなたなら喜んでくれると思ってた」  有紗は柔らかく笑い、佐智子を抱きしめた。佐智子は彼女の背中を叩きもう一度おめでとうと言って離れると、康平は沖田に頭を小突かれていた。  佐智子はふと、疑問に思ったことを口にした。 「あの、言いづらいんだけど――、有紗の元彼があそこに現れたのは?」 「あー、あれは偶然だった。」 「康平が機転をきかせてな、途中でどうやって抜け出すか考えあぐねていたときに……ってわけ」 「なるほどね。お見事」 「ね、そんなことより! 誕生日祝いなんだから、食べようよ!」 「二人の記念でもいいよ?」 「おいおい、サチの誕生日祝いのケーキじゃねえなら金返せよ」 「分かってるよ。愛しのサチちゃんの――」 「てめぇ、サチって呼ぶな!」  沖田と康平のやりとりに、佐智子と有紗は大笑いした。  ――日付を跨いだ頃、有紗と康平は沖田の部屋を去った。二人きりになって随分静かになった部屋。ホールケーキも多いかと思っていたが、大学生が四人もいれば案外たべきれるものだ。残骸を片付けていると、沖田が机の脇にある引き出しから、何かを取りだしてそれを佐智子に渡した。 「え?」 「俺からのプレゼントー」 「ありがとう」 「開けてみて」  包装紙を上手い具合に開けて中を見ると、そこには紙が二枚。佐智子は沖田を一度見て、それを取りだして「え! ――うそ」驚きに目を瞠った。  紙は、日本を代表するあの世界的アミューズメントパークのチケットだった。ただのチケットではなく、一泊二日のチケット。 「嬉しい! ありがとう。私、中学のときに行った以来で……」 「ん。空けといて、この二日は」  沖田はそう言うと、チケットを見つめる彼女の頬にキスをする。 佐智子は幸せを噛みしめるようにして笑った。 「幸せすぎて怖すぎるくらいかも」  ――目を閉じたら、あの日の教室が瞼の裏にくっきりと浮かんだ。 終。
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