99人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、そっか……。おめでとう」
「ありがとう佐智子。あなたなら喜んでくれると思ってた」
有紗は柔らかく笑い、佐智子を抱きしめた。佐智子は彼女の背中を叩きもう一度おめでとうと言って離れると、康平は沖田に頭を小突かれていた。
佐智子はふと、疑問に思ったことを口にした。
「あの、言いづらいんだけど――、有紗の元彼があそこに現れたのは?」
「あー、あれは偶然だった。」
「康平が機転をきかせてな、途中でどうやって抜け出すか考えあぐねていたときに……ってわけ」
「なるほどね。お見事」
「ね、そんなことより! 誕生日祝いなんだから、食べようよ!」
「二人の記念でもいいよ?」
「おいおい、サチの誕生日祝いのケーキじゃねえなら金返せよ」
「分かってるよ。愛しのサチちゃんの――」
「てめぇ、サチって呼ぶな!」
沖田と康平のやりとりに、佐智子と有紗は大笑いした。
――日付を跨いだ頃、有紗と康平は沖田の部屋を去った。二人きりになって随分静かになった部屋。ホールケーキも多いかと思っていたが、大学生が四人もいれば案外たべきれるものだ。残骸を片付けていると、沖田が机の脇にある引き出しから、何かを取りだしてそれを佐智子に渡した。
「え?」
「俺からのプレゼントー」
「ありがとう」
「開けてみて」
包装紙を上手い具合に開けて中を見ると、そこには紙が二枚。佐智子は沖田を一度見て、それを取りだして「え! ――うそ」驚きに目を瞠った。
紙は、日本を代表するあの世界的アミューズメントパークのチケットだった。ただのチケットではなく、一泊二日のチケット。
「嬉しい! ありがとう。私、中学のときに行った以来で……」
「ん。空けといて、この二日は」
沖田はそう言うと、チケットを見つめる彼女の頬にキスをする。
佐智子は幸せを噛みしめるようにして笑った。
「幸せすぎて怖すぎるくらいかも」
――目を閉じたら、あの日の教室が瞼の裏にくっきりと浮かんだ。
終。
最初のコメントを投稿しよう!