第1章 喫茶店『Keep Out』

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  アイリスがただの客ではないと、見抜いての事だ。思えばアップルパイをホールで出すのも非常識である。常人ならば食べきる前に甘すぎて気持ち悪くなる量だからだ。アイリスが無類のアップルパイ好きだという『情報』を、踏まえてのもてなしに違い無い。 「ふふ、さすがね……」 言ったレイズの切れ長の瞳に、ぎらりと鋭い光が過った。心臓を射抜かれるような冷たさに、アイリスは満足げな笑みを浮かべる。 この情報屋、なかなかの腕である。情報屋としても、そして恐らく、戦闘においても。だが、彼女の瞳に気をとられ過ぎたのがいけなかった。 「あっ……」 ぴょんと、先ほどの黒猫がカウンターへ降り立ち、 「にゃーん」 「ちょっ!?」 せっかくのパイをくわえて、そのまま床へと飛び降りた。 「こ、こらっ! 返せ、あたしのパイ!!」 泳がせる掌は空を切るのみである。 「あははは」 あっという間に、店にいた数匹の猫達が、アイリスのパイに群がっていた。 「この、猫どもっ……! おいレイズ、笑い事じゃねぇぞ!! ここは喫茶店だろうが!!」 怒った顔で喚いてみるも、腹の虫が鳴いてはどうしようもない。 「ううっ……」 アイリスが悔しそうな表情で呻きながら、レイズの顔を睨み付けた。 「ふふふ、ごめんね。まぁ、話は長引くだろうし、ゆっくりして行けばいいじゃない。パイならまた焼くよ」 苦笑するレイズへ諦めたように溜め息を吐いたアイリスが、恨めしげな視線を空になったプレートに注ぎつつ、コーヒーからひょっこり伸びるストローへ口をつけた。 「それで……」 と、再び冷蔵庫からパイ生地を取り出しながらレイズが、 「君がこの街に来た目的って、何かな?」 「……知ってる事を、わざわざ聞くんじゃねーよ」 ムスっとしたアイリスの顔。機嫌はまだ直らない。 「ふふ。手厳しいね」 と、肩を竦めた所を見ると、アイリスの言葉はどうやら図星らしい。 「関連情報があるなら、買う。幾らだ」 「うーん、それなんだけど」 「……?」 「買う必要は、無いかも」 「何?」 にっこりと笑う女店主、レイズ・スナイプ。  
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