第1章 喫茶店『Keep Out』

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  屈託の無い笑顔ゆえに、入り込む隙が無い。レイズの言葉が、次々とアイリスの思考回路を稼働させる。アイリスの目的と、この街の特性。それらを考慮して導かれる結論が正しいのならば、 「大した、情報屋だな、お前……」 常人ならば、こんなにも無邪気な笑顔など浮かべるはずか無い。驚きと感心が入り交じり、アイリスの鼓動が速くなる。だがその顔には、不敵な笑みが浮かべられていた。 「追加の情報は、要る? ここからは有料になるけど」 「いや、いい」 即答するアイリス、驚き瞳をまたたくレイズ。 「君も、大した胆の座り方をしてるね」 「必要無いかもって言ったのはどっちだ」 「ふふ、それもそうだね」 チンと鳴るのは、オーブンのベル。この話は、この辺りでお開きである。 再び目の前に置かれた、プレートいっぱいのアップルパイ。アイリスのラズベリー色の瞳が、キラキラと輝いた。 「今度は、うちの猫達に……」 気をつけてね、とレイズが言うより速く、アイリスがパイにかじりついていた。 「んん、んまい! 生地が良いな、レイズ」 「ふふ、ありがとう」 よほど腹を空かせていたのだろうか、それとも先の情報に満足したのだろうか、先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、夢中になってパイを頬張るアイリスの様を眺めながら、 (子猫みたいな娘ね……) レイズの頬も緩んだのだった。 しばらくして。 アイリスは、この街の基本的な情報を多数仕入れ、意気揚々と喫茶店『Keep Out』を後にした。 「世話になったな、レイズ」 「ええ」 「またアップルパイ食いに来るからな!」 「待ってるよ」 「じゃあな!」 カラカラと上機嫌なベルの音へ、ゆらゆらと手を振るレイズ。 「また……」 パタンと、扉がアイリスの小さな体を店の外へ吐き出した。 「会えるといいけど……」 淋しげな表情で呟いたレイズの声は、自分の耳にも届かないほどに小さかった。 「顧客に思い入れなんかするもんじゃありませんよ、レイズさん」 だが、その小さな声を拾った者がひとり。三人いた先客とは別の、低い男の声が背後から響く。レイズは変わらずカウンター内に立っているから、その声は喫茶店のバックルームからのものである。 レイズの表情が呆れに変わり、 「そっちのドアから入らないでって、いつも言ってるでしょ?」 振り向きもせずに声を掛けた。  
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