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「お前…なんで びしょびしょな訳?」
「あー、顔、洗ったから」
トイレを出る前、少し涙で滲んだマスカラのせいでパンダ目になって、思いっきり顔を洗った。
「しかも…目の回り 黒いぞ」
言いながら、あたしの顔を見て笑う富田。
誰のせーで、こーなったと思ってんだよ…
あたしはふて腐れて、溜め息混じりに煙草を手にした。
「ジッポ貸して」
「はいよ」
「ありがと。あたし、これ吸ったら帰る」
「どーした?急に。具合でも悪いのか?」
眉間にシワを寄せて、あたしの顔色を伺うその綺麗な顔に、また一つ腹が立った。
本気で心配なんかしてないくせに…。
「別に、帰りたいから帰る。デザインはちょっと時間ちょーだい」
本当は、一緒に居たい…でも、苦しい。
富田の言葉一つに、一喜一憂して…期待してる自分がバカみたいで。
「じゃー、送ってってやるよ」
「いー」
「あ?歯医者迎えに来んの?」
「来る訳ないでしょ。じゃーね、お金、ここ置いとくから」
財布から取った最後の1万円札を、テーブルの上に置いて席を立った。
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