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゛待てよ ″
後ろから聞こえた声に、振り返らずに店を飛び出した。
大通りのチカチカ点滅し始めた信号を、走って渡った。
渡り切った先、終電間際の夜の喧騒に その場でしゃがみ込んだ。
痛む左胸をギュッと掴む。
酔ってもないのに頭が熱くて、ドクン、ドクンと嫌がらせのように響く鼓動。
ダメだ…もー、ホント…無理。
デニムのポケットに入った携帯が震える。
゛富田 由 ″
富田からの着信に、深呼吸してから出る。
「何?」
「何じゃねーよ。お前、今どこ」
「あー、もー、家の近く」
「は?嘘つくな、釣り忘れてる」
「あたしの奢りでいーよ、じゃーね」
「どこだって、答えろよ」
「もー、ほっといてよ!!」
これ以上 話せない…そう思って、立ち上がって歩き出す。
「見つけた…待ってろ、そこで」
一方的に切られた電話。振り返ると、信号の向こう側で青になるのを待つ富田の姿。
それを目にして、あたしは逃げるように走り出した。
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