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「あ、ライター 忘れた」
「ん」
ぶっきらぼうにあたしの手にジッポを渡す富田。
「サンキュ…」
休憩時間でもないのに、喫煙室にやって来たあたし達。
もちろん、他に誰も居る訳がない。
富田が近くに居るだけで、あたしの少し早い心臓の音が聞こえちゃうんじゃないか…そんなバカな事を考えて、思わず自分で笑いが込み上げた。
「お前、何笑ってんの?あ、歯医者と上手くいってんだろ、もしかして…昨日、俺の事断って歯医者と楽しんでたんだろ?」
「ちがっ…、何言ってんの、バカじゃないの」
昨日の夜、富田から届いたメール。
゛家に居る? ″
本当は、部屋で一人 缶ビールを飲みながら富田の事を考えてた。
頭の整理がつかないまま、あたしは自らこの身体だけの関係を選んで。
一人の夜は、寂しくて、無性に恋しくて、ふと泣きたくなる。
今、会ったら、ひたすら隠してるこの気持ちが、全部溢れ出てしまいそうで。
想いを伝えてしまったら、富田から返される言葉が怖い。
どうしょもないくらい、あたしは弱くて、臆病者で、狡い。
゛ごめん、外 ″
返した後、後悔と安堵を繰り返しながら、缶ビールを数え切れないくらい開けた。
「ま、いーけど。金曜の夜、空けとけよ。酒持って行くから」
「ん…わかった」
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