偶然

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びしょ濡れのカットソーを絞って、ふと鏡に写る自分を見る。 朝しただけのメイクは、この時間にもなればすっかり落ちる。 ビールを飲んで煙草を吸った唇は、色気もへったくれもあったもんじゃない。 「これじゃ…男なんて出来る訳ないっつーの」 少し自分に呆れながら 踵を返した。 もうすぐ日付が変わるというのに、店の中は酔った客で埋め尽くされていた。 「あ、まこ!!おかえりー」 「松岡ごめん!!染み落ちた?」 目の前の富田は、手を合わせて申し訳なさそうな顔をして見せた。 「んー、なんとか落ちた」 あたしは残していったビールのジョッキを傾けて飲み干して。 「今日、富田の奢りね」 「マジかよー!!勘弁してよー」 「ごちゃごちゃ言わない!!男なんだから潔く奢る!!富田、いーから早く ビール頼んで」 .
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