ささやかな幸せ

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煙草を吸いながら、さりげなく富田の方へ視線を移す。 鈴木さんと、他のメンバーと楽しそうに笑う顔。 時折、綺麗な顔をくしゃってさせて笑う顔、その顔好きだな、なんて一人空想に浸りながら眺めた。 あ…、眺めすぎた…。 あたしの視線を感じたのか、こっちを向いた富田と目が合った。 「どーした?酔った?」 「や、何でもない」 「あんま飲み過ぎんなよ、歩けなかったら連れて帰ってやんねーからな」 そう言って、優しい眼差しで笑う富田に、あたしはまた胸を掻き乱される。 「えっ!?お二人はそういう関係なんですか?」 突然、鈴木さんが割って入って、あたしは冷や汗が出る。 「え、や、そーゆーんじゃ…あー、えっと」 即座に何か言わないと…なんて、思ってはみても、すぐに言い訳なんか出てこない。 「松岡と僕の自宅が近いんですよ、コイツが酔っ払うと、送り届けなきゃいけなくて迷惑してるんですよ ハハハッ」 「あ、なんだ、そうなんですか…ハハッ」 富田の言葉で、鈴木さんは納得したよーに、またビールを飲み始めた。 あぶなっ…。 鈴木さんにもだけど…会社のメンバーに富田との、この関係を知られたくない。 恋人同士ならまだしも…三十路目前のいい歳の女が、身体だけの関係だなんて、世間的にも風当たりは相当強いだろーな。 あたしは小さく溜め息を吐いて、席を立った。 .
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