ささやかな幸せ

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「お疲れー お疲れー」 終電組のメンバーを居酒屋の前で見送る。 嬉しくて浮かれるあたしは、鼻歌なんか歌いながら10月のちょっと肌寒い中、タンクトップ姿で10メートル先のコンビニを目指す。 あー、カラオケ行きたいかも。 今なら歌いたい曲がいっぱい出てくる気がする。 コンビニのレジの前、デニムのヒップポケットから千円札を1枚出して、煙草を2箱買う。 お釣りに戻ってきた120円で、コンビニを出た後、自販機の缶コーヒーのボタンを押した。 居酒屋の店の前に置かれた灰皿とベンチ。 そこに浅く腰かけて、買ったばかりの煙草の封を開けて1本口に加えて、ポケットを探る。 ライター、ライター、あれ、ない。 なーんだ…ここで吸いたかったのに。 大量にアルコールが入って熱くなった身体を、少し肌寒い夜風に当てたかったのにな、そんな事を考えながら店の中に入ろうと引き戸を開けた。 「おっ、こんなとこに居たのかよ」 「おー、富田!!ジッポ、持ってる?」 「ん」 白いパンツのポケットから出てきたジッポを受け取って、煙草に火を点けた。 「サンキュ」 ベンチに戻って腰かけて、あたしが吐いた煙が昇っていく真っ暗な空を見上げた。 .
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