ささやかな幸せ

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「あー、星、全然見えなーい」 「お前、酔っ払ってんの?」 「んー、多分、でも悪酔いはしてない」 「みたいだな」 その声と一緒に、空を見上げるあたしの視界に富田が写った。 「アハハッ富田、どーしたの?ハハッ」 富田の真顔が可笑しくて、なぜだかツボに入ったあたしはゲラゲラと笑い出す。 「完売、良かったな」 「アハハッ…ハハッうん、ありがとーハハッ富田のお陰だよ…アハハッ」 あたしの頬っぺたに、富田の手が触れた。 「まこ……」 「ハハハッ…もー、どーした?アハハッ」 笑い続けるあたしの唇に、富田の唇が重なった。 「…ンッ…」 右手にまだ火種の点いた煙草を持って、左手に缶コーヒーを手にしてるあたし。 唇を割って入って来たそれは、アルコールと煙草の匂いが混ざった味。 ゆっくり離れて行こうとする唇、富田の顔が5センチの距離。 「…由……もっと…して…」 目の前にある、ブラウンの瞳の奥が 僅かに揺れる。 富田は少し笑ってから、不意に真顔になって。 「もー帰るぞ、酔っ払い」 言った後、優しいキスが降ってきた。 .
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