ささやかな幸せ

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「希望の希って書いて、のぞみ」 妹の名前を聞いたあたしに、富田は照れ臭そうに教えてくれた。 「へぇー、妹、可愛い名前だね」 「俺が自由で、妹が希望なんだってさ。子供の頃、お袋が言ってた」 「ふーん…なんか、いいね、自由と希望、うん、素敵な両親だねー」 「なんかホントに変わってる親だったよ、ガキの頃、近所の駐車場の車に石投げてフロントガラス割ったらさ、謝りに行った時に、お袋がさっ…」 富田は、楽しそうにクスクス笑いながら。 「『小学生が投げたこんな石くらいで割れるなら、たいした車じゃないわー』とか言いやがって、もー、相手のおっさん、カンカンだったから…ハハッ」 「何それ、あんたのお母さん、最強だねーアハハッ、でもさ、そんぐらい言えたら気持ちいーかも」 「だろーな、俺もそー思う」 他愛もない昔話しを聞きながら、あたしは久しぶりに笑ってた。 「お前は?両親、揃ってんだろ?」 「あー、うん、一応。真面目なサラリーマンと専業主婦の子供だから、あたし」 「へぇ…兄弟いねーの?」 「あー、いるいる、歳の離れた弟、今年高校卒業だったかな」 「10コ下?」 「あー、そう、母親が溺愛してんの。可愛くて仕方ないんじゃない?出来のいー息子」 「へぇー、出来がいーんだ」 「そっ、あたしとは違って、勉強も出来るみたいだし、今の父親の血引いてるから、そーなんだろーけど」 大人になってから、誰にも話せなかった自分の家族の事。 .
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