ささやかな幸せ

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「母親が今の父親と再婚して、弟が生まれて、周りから見たら幸せそーな家族になった」 富田は、ビールを飲みながら黙ってあたしの話しに耳を傾けてくれた。 「別れた父親に似てんだって、容姿も性格も。だから、母親がいっつも比べるんだよね、弟と。それが嫌で、高校卒業してすぐ、家を出たんだー」 「帰ってねーの?」 「あー、たまにね。でも、帰っても、早く結婚しろとか、将来の事考えて早く子供生みなさいとかうるさくて、ホントに世間体ばーっか気にする母親で嫌い」 「そっか、お前も苦労してんだな」 「まぁねー、こんな話し、誰にもした事ないけど…ハハッ」 少なくなった缶ビールを飲みながら、天井を仰いだ。 ずっと胸の奥につかえてた家族の事、富田に話したら、少しだけ靄が晴れた。 あたしは煙草を手にして、富田のジッポで火を点けた。 「もー、ビールねーじゃん、買って来るか…」 ふと、時計を見ると10時を回ってた。 飲むって事は…まだ、帰らないのかな? そんな事をぼんやり考えた。 「お前は?ビール?」 玄関へ向かって行った富田に。 「待って、あたしも行く」 慌てて煙草を灰皿に擦り付けて、フローリングに散乱した洗濯物の中からパーカーを手にして、玄関へ向かった。 .
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