ささやかな幸せ

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不味いカレーを食べてから、飲みながら富田と沢山話しをした。 あたしは、今まで知らなかった富田の事を知る事ができて、それだけで満足だった筈なのに。 どーして、人は欲張りになるんだろう。 どーして、人は恋すると臆病になってしまうんだろう。 こんなに一緒に過ごしたのに、まだ、富田と一緒居たくて。 もっと、富田の事が知りたくて。 「も…帰る?」 「あー、どーすっかな」 あたしの小さな幸せは、もうすぐに幕を下ろそうとしてる。 「そんな、捨てられた猫みたいな顔すんなって」 富田の大きくて温かい手が、あたしの頬っぺたを撫でる。 あたしは、自分の手を、その手にそっと重ねた。 「ありがと」 「何がだよ」 「カレー、不味いって言わないでくれて」 「ハハッ…今度はもっと、旨いの食わせろよ」 「んー、わかった」 「さて、帰るか」 ゆっくりと、あたしの頬っぺたから手が離れていって、頭の上を撫でる。 「じゃーな」 「んー」 玄関へ向かって行く後ろ姿を追いかけて。 「また、月曜な」 言いながら振り返った富田の唇に、触れるだけのキスをした。 「おやすみの…キス」 あたしは、驚いてる富田に向かって、くしゃっと笑って見せた。 .
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