忘れかけた傷

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「まこー、いつもの店で待ってるからねー」 「あー、これ、終わらせたらすぐ行くー」 冬物のサンプルが続々とあがってくる中、あたしはせっせとチェックする。 「おっ、これ、やっぱいーね」 自分でデザインしておいて、こんな事言うとバカだと思われるけど、今年の冬物の出来はかなり良い。 ゛恋愛は仕事にも反映する ″なんて、昔、女友達は言ってた。 けど、あながち嘘じゃないかもしれない。 富田と一緒に過ごした日から、1週間が経った。 あたしの心は、思いの外満たされてた。 帰り際に、あたしからしたキス。 富田は驚いた顔をした後、笑いながら 『おやすみ』そう言って、あたしの唇にキスをした。 この関係に凹んで、何もかも嫌になった事もあった。 臆病で、弱くて、傷付きたくない、そう強く願うあたし。 富田だけは、今までの男と違う気がした。 「おしっ、OK、終わったー」 金曜の夜、仕事が終わった後、足取りは軽い。 恋愛においても、これぐらいフットワークが軽かったら…こんなに苦労はしてないんだろう。 やっぱり酒を飲みに、いそいそと居酒屋に群れる、三十路前の寂しい女2人。 .
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