忘れかけた傷

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「なー、それ、緩くねーの?」 富田が、あたしの右の中指の指輪を見ながら言った。 「んー、ちょっと緩い」 「ふーん…」 曖昧な返事に、不思議に思ったあたしは、指輪を外して目の前の富田に差し出した。 「使う?返そーか?」 「あぁ…いーよ、まだ使ってて」 視線を反らした後、ビールを飲んだ富田を見て、あたしもジョッキを傾けてビールを流し込んだ。 「じゃー、借りとく」 それからあたし達は、『なんで二日酔いの時、コーラ飲みたくなるんだろ?』とか、『ポッキーって旨いよな』とか、『宝くじ、3億円当たったらどーしよー』とか。 ホントに、バカみたいに下らない話しを飲みながらした。 「はぁー、飲んだ飲んだ」 「今日はテキーラ飲まねーの?ハハッ」 富田は白い煙を吐きながら、笑って。 「んー、飲まない」 「珍しーじゃん、テキーラ飲まないの」 「まぁーね」 最近、無理矢理酔いたいと思う事が少なくなった。 今ぐらい、ほろ酔いが一番 心地好い。 それは、富田と居るから…ってのも、あるかもしれないけど。 途端、眠くなるのがあたしの悪い癖。あたしは、大きなあくびを躊躇いもなくする。 「ハハッ でっけー口。そろそろ帰るか?」 「あー、眠っ、ちょっとトイレ行ってくる」 .
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